なかなかなかね野鳥と自然の写真館

疾風怒涛の時代が過ぎ去っていきます。私たちがその中で、ふと佇む時、一時の静寂と映像が欲しくなります。微妙な四季の移ろいが、春や秋の渡りの鳥たちや、路傍の名もない草花にも感じられます。このブログは、野鳥や蝶、花や野草、四季の風景などの写真を掲載しています。

干潟のコチドリと伊藤のレンマ(Ito's Lemma)

日照りの厳しい、干潮の干潟に、コチドリ幼鳥が飛来しました。千鳥足の言葉どおり、ジグザグに移動と静止を繰りかえして、予期せぬ方向に歩いていきます。

この予期せぬ動きをみていたら、「金融工学」(financial engineering) の公式を思い出しました。

こんな予測のつかないデタラメにみえる動作も科学者たちは、理論化して経済行為の応用に活用しています。
 
デリバティブ金融派生商品)のオプション取引における、オプション料の価格付けの算定に用いられる偏微分方程式は、1973年、アメリカのフィッシャー・ブラックとマイロン・ショールズが、日本の数学者、伊藤清氏(京都大学名誉教授)による確率微分方程式の理論を元に考案し、後にロバート・マートンが「ブラック・ショールズ方程式」を厳密に証明し、1997年にショールズとともにノーベル経済学賞を受賞しました。(ブラック氏は受賞以前に死去していたので未受賞)

この千鳥足のような値動きを、ランダム・ウォーク(酔歩)として発想し「伊藤の公式」をレンマ(補助定理)に用いて導かれた「ブラック・ショールズ方程式」は、究極の確率過程を表現することに成功したものと言われています。

ショールズ氏(スタンフォード大名誉教授)は、

「伊藤名誉教授の確率微分法は、数学の長い歴史の中でも重要な基礎となる偉大な業績だ。私とフィッシャー・ブラック氏がオプションの価格モデルを算出するブラック・ショールズ方程式を考案し、マートン氏が確率微分法の考え方を使ってそれを証明した」(日本経済新聞

と述べています。
  
伊藤名誉教授は、大戦中の1942年に、「伊藤の補題(Ito's Lemma)」で知られる確率微分方程式を生み出しました。確率積分を計算する上で重要な伊藤の公式(伊藤ルール)は、確率解析学における革命的な公式で、この公式無しでは確率解析における計算はほぼ不可能といえるそうです。

この論文は、戦後の物資不足のため、伊藤氏が、国立統計局勤務時代の1942年に、仲間うちの勉強会で、配ったガリ版刷り数枚の粗末なもので、発表当時は、応用も分からない基礎理論のため,注目されない地味な研究だったのです。伊藤氏は、彼の理論が、彼の専門外の金融工学に応用され、その研究者がノーベル賞に輝くなどとは、全く知らなかったのです。

この暑い夏でも、多くの無名の研究者たちが、地味な研究をしていることでしょう。

「功名]と無関係な基礎研究をしている人たちのことを思いやる夏の午後です。