なかなかなかね野鳥と自然の写真館

疾風怒涛の時代が過ぎ去っていきます。私たちがその中で、ふと佇む時、一時の静寂と映像が欲しくなります。微妙な四季の移ろいが、春や秋の渡りの鳥たちや、路傍の名もない草花にも感じられます。このブログは、野鳥や蝶、花や野草、四季の風景などの写真を掲載しています。

チョウゲンボウと筑波山

今年もいつの間にか師走(しわす)となりました。「光陰矢の如し」と申します。

もうすぐお正月!

千葉県稲敷市(いなしきし)の干拓地から筑波山(つくばさん)がよく見えます。

冬晴れの冷たい朝の光を浴びながらチョウゲンボウ筑波山を背景にして佇(たたず)んでいましたが、突然、筑波山の方向に飛び去りました。

筑波山と小型のハヤブサチョウゲンボウ、とても「いい感じ」の風景だったのに、ちょっと興ざめ!

そこで、気分を変えて、お正月には恒例(こうれい)の「百人一首(ひゃくにんいっしゅ)」から 陽成院(ようぜいいん。869〜949)が、詠(よ)んだ恋の歌をひとつ鑑賞してみましょう。

この歌は、筑波山の「歌垣(うたがき)の行事」と「男女川(みなのがは)」の知識を前提に観賞するとよく理解できると思います。


 「筑波嶺(つくばね)の 峰より落つる 男女川(みなのがは)
            恋(こひ)ぞつもりて 淵(ふち)となりぬる」

             陽成院(13番) 「後撰集」恋・777

   
( 現代語訳)
  
 筑波のいただきから流れ落ちてくる男女川(みなのがわ)が、
 最初は細々とした流れから次第に水かさを増して深い淵となるよ
 うに、恋心も次第につのって今では淵のように深くなっている。

 (意訳)

最初はほのかだった恋心だけれど、時間がたつにつれてゆるりと深くなっていく。まるで筑波山のいただ きから滔々(とうとう)と流れ落ちる男女川がだんだん太い流れになり、麓(ふもと)で深い深い淵にな るように、私の恋心はこんなにも大きく強くなったのだ。


参考1.筑波嶺(つくばね)

「筑波」は常陸国風土記(ひたちのくにふどき)で有名な筑波山のことです。山頂が男体山と女体山の2つに分かれ、万葉の昔からよく歌に詠まれています。万葉人(まんようびと)には、春と秋に男女が集まって神を祀り、求愛の歌を歌いながら自由な性行為を楽しむ歌垣(うたがき)の場所として知られていました。

この歌の舞台になった筑波山は、茨城県つくば市にある有名な山です。山は2つに分かれており、西の男体山が871m、東の女体山が877mと低いですが、「西の富士山、東の筑波」と称されるほど古くからその優美な姿を愛されており、しかも朝は藍色(あいいろ)、夕刻には紫(むらさき)に色をさまざまに変えるため紫峰(しほう)とも呼ばれています。

また、深田久弥(ふかだきゅうや)の読売文学賞を受賞した「日本百名山(にほんひゃくめいざん)」
の中では、一番低い山とのことです。

筑波山は、一見、独立峰(どくりつほう)にみえますが、実際には八溝山地最南端の筑波山塊に位置する山だそうです。


参考2、男女川(みなのがは)
 
 男女川(みなのがは)「水無乃川」とも書きます。男体山、女体山の峰から流れ出る川なのでこう呼ばれます。川は筑波山の麓を流れて桜川に合流し、霞ヶ浦に流れ込みます。


作者の陽成院は、おそらく筑波山においでになったことはないのでしょうが、筑波山の「歌垣(うたがき)の行事」と「男女川(みなのがは)」の知識を前提にイメージをふくらませて「純真な恋心の歌」をお作りなったと拝察されます。

平安時代のラブ。ロマンスの歌もいいものです。

寒い朝も心が温かくなるように思われますね!