なかなかなかね野鳥と自然の写真館

疾風怒涛の時代が過ぎ去っていきます。私たちがその中で、ふと佇む時、一時の静寂と映像が欲しくなります。微妙な四季の移ろいが、春や秋の渡りの鳥たちや、路傍の名もない草花にも感じられます。このブログは、野鳥や蝶、花や野草、四季の風景などの写真を掲載しています。

椿とウグイス


「鶯(うぐいす)の 笠(かさ)落したる 椿(つばき)かな」   (松尾芭蕉

 
(意訳)
百歳の人の家を訪れると
鶯の声が聞こえ、庭には椿の花が咲き競っています。
木の下には無数の椿の花が落ちています。この椿の花は、鶯が落とした笠なのでしょうね。
 
 鶯は昔から梅の花を縫って笠に仕立てることになっているそうです。梅の代わりに椿を詠んで いるのです。

(参考)
東三条左大臣が、「梅の花を折りてよめる」

「鶯の 笠に縫ふてふ 梅の花
          折りてかざさむ 老かくるとや」

              (古今和歌集


ツバキは古くから庭木として親しまれている日本を代表する花木のひとつだそうです。

野生種としては本州・四国・九州・朝鮮半島南部に分布し、樹高の高くなるヤブツバキ、本州の日本海側、雪の多く降る地帯に分布する樹高のやや低いユキツバキなどがよく知られているようです。

また、ヤブツバキとユキツバキの分布の境界線上の中間地帯にはユキバタツバキというヤブツバキとユキツバキの特徴を併せ持った中間的な存在のツバキが存在し、両者の雑種だと言われているとのことです。

椿は首から落ちるので縁起が悪いと武士が嫌ったという話は、明治時代以降に言われた流言(るげん)のようです。

とくに、江戸幕府の二代将軍・徳川秀忠(とくがわひでただ)は椿を好み、これを栽培させ、武家屋敷に庭木として椿を推奨したとのことです。江戸時代には、椿の品種改良も盛んに行われ庭木としてよく使われたようです。




「昼の井戸 髪を洗ふと 葉椿の
  かげのかまどに 赤き火を焚(た)く」
   
(若山牧水)





ツバキ

参考:以前撮ったウグイス




閑話休題ベートーヴェン ピアノ・ソナタ17番「テンペスト」を聴く


ベートーヴェン : ピアノ・ソナタ 第17番 ニ短調テンペスト


1,(P)イーヴ・ナット 1955年録音 モノラル
2,(P)バックハウス 1963年録音 ステレオ
3,(P)ハイドシェック1968年録音 ステレオ
4,(P)ハイドシェック1998年録音 ステレオ 宇和島ライブ


シェイクスピアの「テンペスト」より第4幕第1場 プロスペローの名台詞(めいせりふ)

We are such stuff as dreams are made on, and our little life is rounded with a sleep.

我々は夢と同じ物で作られており、我々の儚い命は眠りと共に終わる。



このソナタの「テンペスト」という愛称の由来(ゆらい)は、ベートーヴェンの弟子(でし)シントラーによって生み出された逸話(いつわ)とのことです。

このソナタは、シントラーの言うように「この曲を理解するにはシェークスピアの「テンペスト(嵐」を読め」とベートーヴェンが言ったかどうか分かりませんが、上掲のシェイクスピアの「テンペスト」の名文句のように「無常の人生」「色即是空(しきそくぜくう)」を思わせる幻想的で哲学的な曲のように思います。

この曲は作品31の2ですが、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ32曲全部を収録した全集のCDでは、普通、5番目のCD5の2番目に収録されています。(今回、聴いた3つの全集もすべてCD5に収録されています)

通常は、全集を聴く時は、作品31の1から続けて3曲聴くのですが、今回は、この曲だけを、3種類の全集のCDと1枚のライブのCDで聴いてみました。

イーヴ・ナットは、1つのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集を録音しています。
その中の1枚です。

バックハウスには2つのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集がありそのステレオの全集の中の1枚です。

ハイドシェックは、1つのベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集と「伝説の」と宣伝されている四国の「宇和島ライブ」の録音があります。

イーヴ・ナットの演奏はモノラル録音ですが、名技師のシャルランの録音で見事な録音です。
彼自身が作曲家でもあったためかこの曲の曲想をよく表現していて美しい演奏です。


ハイドシェックの「宇和島ライブ」は、某評論家UK氏が絶賛して「テンペスト(OS)と作品31−3(EMI)のハイドシェックが抜群だ。前者は鬼神もたじろぐ凄演、後者は生気あふれる自由な闊達さに棟がすく。この二曲だけはバックハウスも遠く及ばない。」


しかし、「バックハウスも遠く及ばない」というご意見にはかなり違和感を感じます。

バックハウスは、瑞々(みずみず)しく堂々たる演奏で、ハイドシェックに勝るとも劣らない立派な演奏だと思います。

まあ、この音楽評論家は、かなり恣意的(しいてき)な表現をすることで知られているので、これぐらいのことを言うのは当たり前なのかもしれません。

そういえば、彼は、バックハウスのことも、かって「鍵盤(けんばん)の獅子王(ししおう)」などと言って絶賛していましたね。

それでも、この評論家のお陰で、普通なら聴くこともなかったハイドシェックの録音を聴くことができたことを評価すべきかもしれません。

蛇足ですが、指揮者クナッパーツ・ブッシュもこの評論家がいなければ、多分、聴いていないと思います。

趣味の世界であるクラシックなどの音楽評論家は、とても公平には評論できないのかもしれませんが、あまり個人の好き嫌いを露骨に出して評論するのは・・・?

ハイドシェックの演奏の比較では、EMIの全集の中の「テンペスト」より宇和島ライブの「テンペスト」のほうが、気分が高揚していて、自由闊達な凄演のように思います。

なお、宇和島ライブはヤマハのグランド・ピアノで弾いていて、この音も魅力的です。

某評論家は「贔屓(ひいき)の引き倒し」ですが、ハイドシェックも「魅力ある演奏」ですし、バックハウスも「堂々たる演奏」です。

どの演奏も甲乙つけがたいのですが、私は、イーヴ・ナットの美しく素敵な演奏がこの曲には相応(ふさわ)しいような気がします。

モノラル録音でもそんなことは気にならないほど見事な演奏の「テンペスト」だと思います。