なかなかなかね野鳥と自然の写真館

疾風怒涛の時代が過ぎ去っていきます。私たちがその中で、ふと佇む時、一時の静寂と映像が欲しくなります。微妙な四季の移ろいが、春や秋の渡りの鳥たちや、路傍の名もない草花にも感じられます。このブログは、野鳥や蝶、花や野草、四季の風景などの写真を掲載しています。

ホトトギスの托卵に対抗するウグイス

春も過ぎたのにあちこちで、ウグイスのさえずりをよく聞きます。

たとえば、印旛沼のヨシ原、利根川下流域のヨシ原でも、よくさえずっています。

どのウグイスも今頃はとても上手にさえずっています。

ウグイスは、大きな鳴き声で近くの草の茂みでさえずっていても、たいていの場合、草の茂みにかくれ姿を現しません。

しかし、こんなに用心深く姿を見せないウグイスも「非常事態」には姿をさらすこともあるようです。


梅雨明けの7月19日、信州・戸隠神社の森でも、ウグイスがあちこちでさえずっていました。
「また、声だけだ」と、思っていたら、突然、草の茂みから、ウグイスが鳴きながらり飛び出してきました。

どうも、身体をふくらませて怒っているようです。

この近くでは、あちこちでホトトギスの鳴き声が大きく聞こえていました。

実は、ホトトギスは、ウグイスの天敵なのです。

カッコウの仲間のホトトギスは、他の鳥(たとえばウグイス)の巣に自分の卵を産んで、その鳥に育てさせ、その鳥の卵を全滅させ、自分の子供だけ育ててもらう托卵(たくらん)という行為を行います。


少し長いですが、以下に「平成 23 年8月31 日付け独立行政法人国立科学博物館プレスリリース

        ホトトギスの托卵に対するウグイスの対抗手段
        ‐リスクの変化に対応した防衛行動の調節‐

を引用させていただきます。


カッコウ科のホトトギスは、もっぱらウグイスを托卵相手(宿主)として利用します。托
卵を受けたウグイスは、ホトトギスの卵・雛の世話をする羽目になるうえ、ホトトギスの雛
がウグイスの卵を巣外に捨て去るため自分の子をまったく残すことができません。

カッコウの宿主の中には、卵の模様や色からカッコウの卵を区別して巣外に捨てたり、托
卵に気づくと巣を放棄して再営巣したりして、托卵を拒否するものがいます。しかし、ウグ
イスとホトトギスの卵はいずれもチョコレート色で模様がなく、ウグイスがホトトギスの卵
を区別して托卵を拒否する行動は見られません。

この度、ウグイスは托卵されてからではなく、托卵される前に対抗手段をもつことを明ら
かにしました。ホトトギスの剥製を巣の前に置くと、ウグイスはそれを激しく攻撃しました。
無害なキジバトの剥製にはほとんど反応しませんでした。このことから、ウグイスは托卵に
やってきたホトトギスから巣を守り、托卵を妨げるものと考えられます。

さらに、ウグイスは托卵をされるリスクに応じて、巣の防衛行動を調節していました。

ウグイスは暖かい地方(例えば関東地方低地)では4 月に繁殖を始めますが、夏鳥として渡来
するホトトギスが托卵を始めるのは6 月になってからです。

ウグイスはホトトギス渡来前よりも渡来後に、剥製を激しく攻撃しました。

托卵に抵抗できないように見えるウグイスの親も、人の目に触れない形で托卵回避を行っ
ていました。

しかも、ホトトギスを元々認識できるが、托卵されるリスクが高い時期になる
と厳戒態勢をとるように防衛行動を調節することがわかりました。」



多分、この信州・戸隠神社の森のウグイスは、毎年、夏にやってくる天敵のホトトギスにいつも対抗しているのかもしれません。

他では姿を見せないウグイスが、なぜ姿をさらして出てきたのでしょうか?

多分、このウグイスは、目ざとくホトトギスの姿を確認しスクランブル(緊急発進)のために姿を現したのかもしれません、

姿を現したウグイスは、低木にとまって、しきりにさえずっていましたが、そのうち、草むらに姿を消しました。

生き物たちの「命がけの戦い」がこの「静かな神域」にも繰り返されているようです。



「ひとりきくや 夏鶯(なつうぐいす)の 乱鳴(みだれなき)」

                  (夏目漱石