モンシロチョウが、ピンクの花の周りをヒラリ、ヒラリと飛んでいます。カメラを構えて蝶を追っていると、ファインダーから見える蝶などの景色が、ピントが、はずれてぼんやりと見えます。「春の夢」を見ているような気がします。
平家物語では、その冒頭で、「春の夢」を儚(はかな)いものの例えに使っています。
祗園精舎(ぎおんしょうじゃ)の鐘の声、
諸行無常(しょぎょうむじょう)の響きあり。
娑羅双樹(さらそうじゅ)の花の色、
盛者必衰(じょうしゃひっすい)の理(ことわり)をあらはす。
おごれる人も久しからず、
唯(ただ)春の夜の夢のごとし。
日本だけではなくてドイツでも「春の夢」は、「一時(ひととき)の安らぎ」が、「瞬(またた)くうちに変化するもの」ととらえているようです。
シューベルトの歌曲集「冬の旅」の11曲目の曲に「春の夢」があります。この歌曲集は、ヴィルヘルム・ミュラーの詩にシューベルトが曲をつけたものです。この歌曲集は、絶望的に暗い曲が多いのですが、この曲の初めは、穏やかで安らぎの気分で、演奏されます。でも、すぐにその安らぎが、破られてしまいます。
今の世も、大きな歴史の流れから見れば、ひと時の安らぎかもしてません。
「何せうぞ、くすんで、一期(いちご)は夢よ、ただ狂へ」(閑吟集)