なかなかなかね野鳥と自然の写真館

疾風怒涛の時代が過ぎ去っていきます。私たちがその中で、ふと佇む時、一時の静寂と映像が欲しくなります。微妙な四季の移ろいが、春や秋の渡りの鳥たちや、路傍の名もない草花にも感じられます。このブログは、野鳥や蝶、花や野草、四季の風景などの写真を掲載しています。

市川市動植物園のバラ「ブライダル・ピンク」

バラの歌でよく知られている歌にシューベルトのドイツ歌曲「野ばら」があります。

この歌詞は、ドイツの詩人ゲーテJohann Wolfgang von Goethe/1749-1832)による1770年頃の作品だそうです。

日本では、近藤 朔風(こんどう さくふう)訳詩の ♪「童は見たり(わらべはみたり)、野中のバラ〜」の歌い出しで広く知られています。

ゲーテのこの詩は傑作と言われていて、多くの人々が、この詩に対する作曲意欲をかきたてるようで、シューベルトやウェルナーを始めとして154曲もの曲があるそうです。

この「野ばら」の歌で私が思い出すのは、「わが恋の終わらざる如く、この曲もまた終わらざるべし」 Wie meine Liebe nie zu Ende gehen wird, so soll auch diese Musik nie zu Ende gehen. 」という文句で有名な、戦前のドイツ映画「未完成交響楽」です。

この映画には、シューベルトの有名な曲がたくさん使われています。

「未完成交響曲」をはじめ「菩提樹」「野ばら」「軍隊行進曲」「セレナーデ」「アベマリア」などが収録されてます。

「野ばら」がこの映画に登場するシーンは、とても魅力的です。

主人公のシューベルトが、小学校の代用教員の時、算数の授業中に、突然、「野ばら」の曲想が浮かんで、算数を教えていたはずなのに、それまで黒板に書いていた数式に音符が加わって、楽譜になってしまったため、生徒たちが一斉に「野ばら」の歌を合唱するシーンです。

映画「未完成交響楽」の説明は、以前このブログで書いたので省略しますが、この映画は古い映画ですが、とても魅力のある映画です。

私は、時々、DVDで映画「未完成交響楽」を見て楽しんでいます。

以下に、ゲーテの原詩と近藤朔風の訳詩を掲載します。

この歌は、Sah ein Knab' ein Röslein stehn”(「男の子が野に咲く薔薇を見つけました」で始まります。



     Heidenröslein
                 Johann Wolfgang von Goethe


Sah ein Knab' ein Röslein stehn,
Röslein auf der Heiden,
War so jung und morgenschön,
Lief er schnell, es nah zu sehn,
Sah's mit vielen Freuden.
Röslein, Röslein, Röslein rot,
Röslein auf der Heiden.


Knabe sprach: Ich breche dich,
Röslein auf der Heiden!
Röslein sprach: Ich steche dich,
Daß du ewig denkst an mich,
Und ich will's nicht leiden.
Röslein, Röslein, Röslein rot,
Röslein auf der Heiden.


Und der wilde Knabe brach's
Röslein auf der Heiden;
Röslein wehrte sich und stach,
Half ihm doch kein Weh und Ach,
Mußt' es eben leiden.
Röslein, Röslein, Röslein rot,
Röslein auf der Heiden.





       「野ばら」        訳詞:近藤 朔風(こんどう さくふう)


童(わらべ)はみたり 野なかの薔薇(ばら)
清(きよ)らに咲(さ)ける その色愛(め)でつ
飽(あ)かずながむ
紅(くれない)におう 野なかの薔薇

手折(たお)りて往(ゆ)かん 野なかの薔薇
手折らば手折れ 思出(おもいで)ぐさに
君を刺(さ)さん
紅におう 野なかの薔薇

童は折りぬ 野なかの薔薇
折られてあわれ 清らの色香(いろか)
永久(とわ)にあせぬ
紅におう 野なかの薔薇


この歌は、ゲーテが、学生時代に、フランス国境付近のシュトラスブルクから30キロほど離れたゼーゼンハイムの牧師の娘、フリーデリーケ・ブリオンと恋に落ちたことを回想して詠(よ)んだ詩といわれ、その歌詞に二人の別れが暗(あん)に描写(びょうしゃ)されているとも言われています。

私がよく聴くシューベルトの「野ばら」は、フィリップス社のCD「菩提樹 シューベルト歌曲名曲集」の中の一曲です。

オランダのリリック・ソプラノ歌手、エリー・アーメリング(Elly Ameling)がとても上品で愛らしく歌っています。

この曲はシューベルトが18歳の時に作曲したもので、素朴で愛らしい歌ですが、その内容は、バラはトゲで子供に抵抗するのですが、ついに折られてしまうという哀(かな)しい歌でもあります。

さて、市川市動植物園のバラ「ブライダル・ピンク」の系統は、「F」つまりフロリバンダとのことです。

フロリパンダというのは日本の「ノイバラ」に由来するポリアンサ系統とハイブリット・ティー系統などが交雑された、花の大きさは5〜11センチほどの中輪で、一枝で二輪以上多いもので15輪以上咲かせる房咲きという種類なのだそうです。

もうすぐ6月ブライダル・シーズンの到来です。ゲーテの「野ばら」のように「別れること」がないような丈夫な「ブライダル・ピンク」であってほしいものです。

淡いピンクは「花嫁の色」なのかもしれませんねぇ〜。

ネットの「バラ図鑑」によれば、


ブライダル・ピンク 英名 Bridal Pink

作出者 E.S.Boerner
系統 F
作出年度 1967
作出国 アメリカ

紹介文
薄いピンク色で、剣弁高芯咲き。
微香性。切り花用として、多く流通した品種です。



とのことです。





「ゆくりなく 庚申薔薇(こうしんばら)の 花咲きぬ
             君を忘れて 幾年か経(へ)し」

                    (北原白秋