梅雨(つゆ)が続いています。 6月20日は、午前4時には大雨でしたが、5時には上がりました。
雨上がりの一面の濃い「朝もや」が、早朝(そうちょう)の利根川中流域(とねがわちゅうりゅういき)の葭原(よしはら)をおおっています。
時々、カッコウの鳴き声が聞こえます。
でも、もっと大きな鳴き声の大合唱(だいがっしょう)も聞こえてきます。
「ギョギョシ、ギョギョシ、キーキーキー」
「ギョギョシ、ギョギョシ、キーキーキー」
オオヨシキリの大合唱です。
この広い葭原(よしはら)は、オオヨシキリの営巣地(えいそうち)です。たくさんのオオヨシキリの巣(す)が葦(よし)の中に隠(かく)れているようです。
カッコウの托卵(たくらん)する場所には、絶好(ぜっこう)の場所かもしれません。
托卵というのは、カッコウなどが他の鳥(たとえばオオヨシキリ)の巣に近づき、その卵をひとつクチバシデくわえ、巣の外におとして、その空いた場所に育て親とよく似た模様の自分の卵をひとつだけ産んで、オオヨシキリなどに育ててもらい、カッコウの卵は育て親の鳥の卵より先に孵(かえ)って、この孵ったヒナが育て親の鳥の卵を身体全体を使って巣の外に押し出して、巣のなかには自分だけになり、エサを独り占め(ひとりじめ)して、育て親よりも大きくなります。このような習性(しゅうせい)を托卵といいます。カッコウのメスは卵を産むのに10秒とはかからないほど早く産むそうです。
世界大百科事典 第2版の解説によれば、
たくらん【托卵 brood parasitism】
自分では巣をつくらずに,ほかの種の鳥の巣に卵を産みこみ,その後の世話をその巣の親鳥にまかせてしまう鳥の習性。ホトトギス科,ミツオシエ科,ムクドリモドキ科,ハタオリドリ科,ガンカモ科の鳥に見られる。この習性について最もよく調べられているのは,ホトトギス科のホトトギス属の鳥,特にカッコウである。これらの鳥では,雌は自分の卵を1個産みこむと同時に,巣の中の卵を1個くわえとり,飲みこむか捨てるかしてしまう。
つまり、オオヨシキリにとっては、カッコウは、「招かれざる客」なのです。
利根川の一面の葭原(よしはら)のあちこちに、こんもり繁った木があります。
これらのこんもり繁った木の近くに、枯れ枝がいくつか空に突き出ている枯れ木があります。
この木の枯れ枝は、ホオジロ、ムクドリ、カラスなどがよくとまるようで、鳥がとまるのに都合のいい場所になっているようです。
この枯れ枝には、さっきまで、ホオジロがとまって囀(さえず)っていました。
いつの間にかその同じ枝にカッコウがとまっています。
身体の小さなホオジロを追い払ってとまったようです。
突然、オオヨシキリが現れました。
この勇敢(ゆうかん)なオオヨシキリは、木の下の枝にとまつて体の大きなカッコウを威嚇(いかく)し始めました。オオヨシキリよりも、そうとう大きな身体(からだ)のカッコウに大胆(だいたん)にも宣戦布告(せんせんふこく)しているようです。
カッコウも身構え(みがまえ)ました。何か叫(さけ)んでいます。オオヨシキリは、カッコウに全力でぶつかって波状攻撃(はじょうこうげき)をし始めました。カッコウもクチバシを大きく開けてオオヨシキリを恫喝(どうかつ)します。オオヨシキリは、覚悟(かくご)の上の攻撃(こうげき)なのでひるみません。
朝靄(あさもや)の中の「鳥の対決」は、「川中島の合戦(かわなかじまのかっせん」)を思い出します。
♪「鞭声(べんせい)は粛々(しゅじゅしゅく)として夜に乗(じょう)じて河を渡り
暁(あかつき)に数千の兵が大将の旗を擁(よう)して前にあるを見る。
敵は不意(ふい)に出て大いに驚きぬ。 」
八幡原(はちまんばら)に布陣(ふじん)した上杉軍は、濃霧の晴れるのをじっと待っています。午前七時半ごろ、八幡原にたちこめていた霧が晴れると、川中島の合戦の火蓋(ひぶた)が切って落とされます。
オオヨシキリとカッコウの戦いのこの場所も「朝もや」の晴れる午前7時頃の戦いです。
オオヨシキリは、上杉謙信(うえすぎけんしん)で、カッコウは、武田信玄(たけだしんげん)なのでしょうか?
オオヨシキリは、托卵(たくらん)されて、卵をこわされる「にっくきカッコウ」が、宿命(しゅくめい)の天敵(てんてき)なのです。
オオヨシキリは、まるで上杉謙信軍のとった車懸りの陣(くるまがかりのじん)のように武田信玄のとった鶴翼の陣(かくよくのじん)のカッコウに襲い掛かり(おそいかかり)ました。
カッコウへのオオヨシキリの体当たり攻撃は強烈(きょうれつ)で2羽とも落ちていきましたがお互いに体制をたてなおしカッコウは、飛び去りました。
オオヨシキリは草叢(くさむら)に消えました。
オオヨシキリは、一旦(いったん)はカッコウを追い払いました。 オオヨシキリの勝利です。
でも、カッコウのオスは、追っ払われましたが、メスがしぶとく、その後また、この枝にとまりました。
メスは、すぐに飛び去っていきました。
その後は、カッコウはしばらく現れませんでした。
もうカッコウは、この木には来ないと思って、撮影をやめて、その木の裏側の農道を歩いていたら、また、カッコウの声が聞こえました。
振り返って、枯れ木を見たら、カッコウのオスが、やってきてとまっていました。
再挑戦(さいちょうせん)のようです。
この宿命(しゅくめい)の対決(たいけつ)はいつまでつづくのでしょうか?
「 いま、夢に閑古鳥(かんこどり)を聞けり。
閑古鳥を忘れざりしが
かなしくあるかな。
ふるさとを出いでて五年いつとせ、
病やまひをえて、
かの閑古鳥を夢にきけるかな。」
石川啄木(いしかわたくぼく)「一握の砂(いちあくのすな)より」
注)閑古鳥(かんこどり)は、カッコウの別名です。