なかなかなかね野鳥と自然の写真館

疾風怒涛の時代が過ぎ去っていきます。私たちがその中で、ふと佇む時、一時の静寂と映像が欲しくなります。微妙な四季の移ろいが、春や秋の渡りの鳥たちや、路傍の名もない草花にも感じられます。このブログは、野鳥や蝶、花や野草、四季の風景などの写真を掲載しています。

葭原にダイナミックに着地するサンカノゴイ

6月29日は、朝から土砂降りの雨。天気予報では、「不安定な天気で雷雨の予想」が出ていました。

今日の撮影は、無理かと思って、「雨雲レーダー」で雨雲の動きをみると、午後からは何とか晴れそうです。

地区ごとの詳細予報も午後には、晴れとのことなので、見切り発車で、雨の中、印旛沼に出かけました。

現地に到着したのは8時半頃です。雨は小降りですが、まだ降っています。

雨に濡れながら、沼の前の田んぼを観ると、サンコノゴイが田んぼの緑の稲穂の波から頭と首だけ出しています。

沼の葭原でもボォーとサンカノゴイの低い鳴き声が聞こえています。

でも、どちらのサンカノゴイも、その全体の姿を現さなくて、なかなか飛びません。 

ずっーと飛びません。

雨も小降りになりましたが、突然、また、黒雲が出てきたりして、すっきりしません。

強い雨になりそうな時には車の中に逃げ込みます。

少し小降りの時には、多少濡れても車から出て頑張ります。

それでも、そのうちだんだん明るくなり、予報どうり晴れてきました。

待つこと4時間。

田んぼにいたサンカノゴイの一羽が、ようやく田んぼから飛び出しました。

でも、ずいぶん遠いところを飛んでいます。どんどん遠ざかっていきます。

これはダメかとあきらめはじめた矢先、突然、方向転換してこちらに飛んで来ました。

低空飛行で、葦原の上をかすめて飛んでいます。かなり近づいてきました。このままこちらに飛んでくると思ったのですが、突然、視界から消えました。

サンカノゴイは、高く舞い上がったのです。このままの低空飛行では、葭原の中にもぐりこむことは、できないのでしょうね!

消えたサンカノゴイを上空に向かって、あわてて探すと、今度は、みるみる視界に入ってきました。とても敏捷(びんしょう)な動きです。真正面をむいて飛び込んできます。

サンカノゴイは、グライダーのように滑空して、網目の模様のついた翼を扇のように目いっぱいに広げ、前足を出し、精悍(せいかん)な姿を眼前に現しました。

その後すぐ「翼を広げたままの姿」で葭原に消えたように見えました。実際は羽を瞬時にたたんだようです。

見事な着地です。

待ちくたびれて気持ちもダレ気味の私だったのですが、気を取り直して、何とか撮影することができました。

あっという間のできごとです。

運よく撮影できたのは、鳥の神様が、誰もいない雨の中で頑張っていた私に対するご褒美(ごほうび)をくれたのかもしれません。

なぜなら、雨があがってから来た人たち(3人)は、私と同じ場所にいたのに、だれも撮れなかったのですから。

撮影できてよかった!よかった!









閑話休題ー「デルスー・ウザーラ」とサンカノゴイ



「デルスー・ウザーラ」は、シベリアの原住民の猟師(りょうし)の名前であり、極東地方への探検家・科学者・旅行家・作家のウラジーミル・アルセーニエフ(露: Влади́мир Кла́вдиевич Арсе́ньев, 1872年8月29日 - 1930年9月4日)の「シベリア・ウスリー地方の探検記」の題名なのです。


河出文庫長谷川四郎訳「デルスー・ウザーラ」(上) の裏表紙の説明によれば、探検記「デルスー・ウザーラ」は、


今世紀初め、シベリア・ウスリー地方の探検調査にあたったアルセーニエフは、密林のなかで原住民の猟誌デルスー・ウザーラと出会い、強くひきつけられる。シベリア大自然のなかで獣も鳥も魚も、密林の生き物たちすべてを、ひとしく「ヒト(人)」とみなして共棲するデルスーに、アルセーニエフは高貴な人間性をみいだし、深い畏敬と愛情をこめてデルスーを活写する。


とあります。

また、この探検記は、1975年制作の黒沢明監督の映画 「デルス・ウザーラ Derus Uzala」の原作なのです。


この本の中にサンカノゴイが登場する場面があります。

ここでのサンカノゴイの描写は、かなり的確で素晴らしい観察力で書かれています。


河出文庫長谷川四郎訳「デルスー・ウザーラ」(上)よりその部分をご紹介します。

その本の「レフー河の下流」の探索記の一部分です。

「それから私はサンカノゴイを見つけた。灰色をおびた黄色い羽の色、よごれたような黄色いクチバシ、黄色い目と同じような黄色い足が、この鳥をひどく不器量なものにしている。この陰気くさい鳥は背中をかがめて砂州の上を歩き、せわしげに飛び回るカササギを追いまわしていた。

カササギが少し飛び去って、地面に降りると、サンカノゴイはすぐさま、そちらへ歩いていき、近よると走って襲いかかり、その鋭いクチバシでつつこうとした。

小舟をみてサンカノゴイは草にかくれ、首をのばし、頭を高くあげて、その場にじっと動かなくなった。舟がそのそばを通るとき、マルチェンコが射った。弾丸は鳥のすぐそばのアシをかすめたほど近かったが命中しなかった。

サンカノゴイは微動だもしなかった。デルスーが笑いだした。「あれ、たいへん、ずるい人。いつも、ああして、だます」彼は言った。

じっさいサンカノゴイはもうどこにいるのかわからなくなった。その羽の色と上方へあげたクチバシは、すっかり草の中にまぎれこんでしまった。


サンカノゴイの描写は、アルセーニエフの観察力の確かさを物語っています。

私は、サンカノゴイをこんなに詳しく言葉で表現できないので、せめて、写真で見ていただくばかりです。

でも、この著者のように「サンカノゴイが不器量で陰気な鳥」と見たことはありません。

シベリアの風土では、そういうふうに見えるのかもしれません。

印旛沼で飛ぶサンカノゴイは、かなり精悍で迫力たっぷりな素晴らしい珍鳥と思っています。