白樺峠に来る楽しみは、「鷹の渡り」を見る楽しみのほかに「渡りをする蝶」を見る楽しみもあります。
タテハチョウの仲間のアサギマダラは、その「渡りのすごさ」で有名です。
アサギマダラは、季節により長距離移動をする日本で「唯一」の蝶なのだそうです。
春から夏にかけては本州等の標高の高い高原地帯を繁殖地とし、秋、気温の低下と共に南方へ移動を開始し、遠く九州や沖縄、さらに八重山諸島や台湾にまで海を越えて飛んでいくそうです。
海を渡って1000キロ以上の大移動です。
台湾・陽明山まで飛んだのはこれまで5個体が確認されているそうで、2100キロを飛んだことになります。
また逆に冬の間は、暖かい南の島の洞穴で過ごしているようで、新たに繁殖した世代の蝶が春から初夏にかけて南から北上し、本州などの高原地帯に戻るという生活のサイクルをきちんと守っているとのことです。
また、白樺峠の鷹見の広場には、このころ松虫草(マツムシソウ)がたくさん咲いていて、この花から吸蜜するため、多くの種類の蝶が観察できます。
この日もアサギマダラが、マツムシソウにとまり吸蜜していました。
このアサギマダラも、「はるか遠い南の島」に渡るために懸命の吸蜜をしているのです。
ぼんやり南国のことを考えていると、シューベルトの歌曲「あの国をご存知ですか Kennst du das LandD321」のエリー・アーメリング(ソプラノ)の歌唱を思い出しました。
彼女の Dahin! dahin(あそこへ あそこへ)の歌唱が頭をよぎりました。美しい浅葱色(あさぎいろ)の,この蝶にふさわしい歌唱です。
レモンの木は花咲き くらき林の中に
こがね色したる柑子は枝もたわわに実り
青き晴れたる空より しづやかに風吹き
ミルテの木はしづかに ラウレルの木は高く
雲にそびえて立てる国や
彼方へ
君とともに ゆかまし
ドイツ語の原詩(ゲーテ作「ヴィルヘルム・マイスターの修業時代」より)
Kennst du das Land, wo die Zitronen...
(by Johann Wolfgang von Goethe (1749-1832)
from Wilhelm Meisters Lehrjahre, Book III, Chapter 1)
Kennst du das Land, wo die Zitronen blühn,
Im dunkeln Laub die Gold-Orangen glühn,
Ein sanfter Wind vom blauen Himmel weht,
Die Myrte still und hoch der Lorbeer steht?
Kennst du es wohl?
Dahin! dahin
Möcht ich mit dir, o mein Geliebter, ziehn.
Kennst du das Haus? Auf Säulen ruht sein Dach.
Es glänzt der Saal, es schimmert das Gemach,
Und Marmorbilder stehn und sehn mich an:
Was hat man dir, du armes Kind, getan?
Kennst du es wohl?
Dahin! dahin
Möcht ich mit dir, o mein Beschützer, ziehn.
Kennst du den Berg und seinen Wolkensteg?
Das Maultier sucht im Nebel seinen Weg;
In Höhlen wohnt der Drachen alte Brut;
Es stürzt der Fels und über ihn die Flut!
Kennst du ihn wohl?
Dahin! dahin
Geht unser Weg! O Vater, laß uns ziehn!