カワセミが池のほとりの木の飛びこみ台からじっと水面(みなも)を見つめています。何度も仕切り直しをして、身構えています。獲物の魚は、なかなかその下には来ていないようです。長い時間が流れていきます。長いと言っても15分か20分くらいでしょうか?カワセミが水にとび込みました。
宮沢賢治の童話「やまなし」にカワセミが魚を捕る様子を蟹の親子の目線で描かれているので引用してみます。
「(前節省略)そのお魚がまた上流(かみ)から戻つて来ました。今度はゆつくり落ちついて、ひれも尾も動かさずたゞ水にだけ流されながらお口を環(わ)のやうに円くしてやつて来ました。その影は黒くしづかに底の光の網の上をすべりました。『お魚は……。』その時です。俄(にはか)に天井に白い泡がたつて、青びかりのまるでぎらぎらする鉄砲弾(だま)のやうなものが、いきなり飛込んで来ました。
兄さんの蟹ははつきりとその青いもののさきがコンパスのやうに黒く尖(とが)つてゐるのも見ました。と思ふうちに、魚の白い腹がぎらつと光つて一ぺんひるがへり、上の方へのぼつたやうでしたが、それつきりもう青いものも魚のかたちも見えず光の黄金(きん)の網はゆらゆらゆれ、泡はつぶつぶ流れました。
二疋はまるで声も出ず居すくまつてしまひました。
お父さんの蟹(かに)が出て来ました。
『どうしたい。ぶるぶるふるへてゐるぢやないか。』
『お父さん、いまをかしなものが来たよ。』
『どんなもんだ。』
『青くてね、光るんだよ。はじがこんなに黒く尖つてるの。それが来たらお魚が上へのぼつて行つたよ。』
『そいつの眼が赤かつたかい。』
『わからない。』
『ふうん。しかし、そいつは鳥だよ。かはせみと云ふんだ。大丈夫だ、安心しろ。おれたちはかまはないんだから。』
『お父さん、お魚はどこへ行つたの。』
『魚かい。魚はこはい所へ行つた』
『こはいよ、お父さん。』
(以下省略)(ネットの青空文庫、宮沢賢治「やまなし」から抜粋しました。)
捕えた魚をくちばしにくわえてカワセミは、飛びあがってきました。止まり木の前で羽を広げて減速し、とても小さな赤い足を、せいいっぱい伸ばして、器用に木につかまりました。小さな魚ですが見事にしとめました。一気に飲み込んでしまいました。