大きな岩の上にちょこんとカワセミが座っています。
いや、座っているのではなく、ここで、眼下の川を泳ぐ魚を狙っているのです。
座っているように見えるのは、体のわりにとても小さなオレンジ色の足のせいなのかもしれません。
カワセミの姿は普通の鳥たちと相当異なっています。
頭がとても大きいのでせいぜい3頭身くらいです。
モズも頭が大きい鳥ですが、概して、頭が大きい鳥は可愛(かわい)くみえます。
さらにカワセミは、美しくエメラルド・グリーンに輝く見事な構造色の羽に覆(おお)われています。
そのためかカワセミには「翡翠(ひすい)」という素晴らしい漢字が当てられます。
羽毛の色が、青にも緑にも見える宝石のように美しいカワセミなので、「飛ぶ宝石」とも呼ばれています。
宝石の「翡翠」は、カワセミの羽のように美しい石なので、翡翠という名前がついたそうで、実は、翡翠の名前の本家は「カワセミ」なのです。
岩の上で輝く宝石のようなカワセミを見ていると
「青淵(せいえん)に 翡翠(かわせみ)一点 かくれなし」 (川端 茅舎)
の句を思い出しました。
まさに、この句のように、カワセミが一点だけ白い岩の上に輝いています。
ところで、ギリシア神話に登場する「アルキュオン」(カワセミ)は伝説の鳥で、 冬至(とうじ)のころに海の上に浮かぶ巣を作るといいます。
「海で遭難(そうなん)して、死んで海上を漂(ただよ)う美丈夫(びじょうぶ)の夫ケユクスのもとへ、美貌(びぼう)の妻のアルキュオネが、海へと身を躍(おど)らせると、不思議(ふしぎ)なことに、次の瞬間、アルキュオネの腕は翼となり、その身は宙を舞っていたのです。
この夫婦を哀(あわ)れに思った神々が、二人を美しい翡翠(カワセミ)に生まれ変わらせたのでした。
アルキュオネは、夫ケユクスのもとに飛んで行って仲睦(なかむつ)まじく暮らしました」
こんなことを考えていると、カワセミは、スィット飛び去って消え去りました。
川面(かわも)を一筋の青い直線が通り過ぎていきました。
その時、ふと、次の短歌が、頭をよぎりました。
「よろこびか のぞみかわれに ふと来る
翡翠(かわせみ)の羽の かろきはばたき」
(片山廣子)
翡翠(かわせみ)の季語は、夏ですすし、日本では、川や池にいるのに、ギリシャでは、海鳥で、冬至のころの巣づくりをする鳥なので、違う種かもしれませんね。
でも、カワセミの美しさは東西変わることは無さそうですね。